ショートターミズム(短期主義)
ショートターミズム(短期主義、近視眼的経営)とは、企業や投資家による短期的なキャッシュフローやリターンを重視した行動を指します。ショートターミズムは、日本企業の持続的成長を阻んでいる大きな要因の一つです。経営者や投資家が構造的要因により短期主義に陥ってしまった結果、長期ROIを軽視したまま短期の利益を求めた過剰な資本配分が進み、中長期的な企業価値醸成を阻害しています。
① 過剰な値上げ・値下げ
ダンピングや実態にそぐわない価格設定は継続性がなく、顧客との関係に悪影響を及ぼします。価格調整で単発的に利益をあげることはできますが、プロダクト・サービスに対する適正値で価格を設定しなければ、顧客の信頼を失い、ビジネスモデルの破綻を引き起こします。
② リソースの分割・切り売り
投資家が短期的なリターンを得るために、企業のリソースを分割し切り売りするケースが散見されます。特に売却益のみを目的とするアクティビストの事業介入は、企業の中長期的成長を無視するものも多く、持続的な経済成長の阻害要因になり得ます。
③ 教育の軽視
人材教育はROIが見込みにくく、資本と時間が投下されづらいものです。しかし、中長期的視野に立ってLTVを考えると人材の育成はリターンのポテンシャルを大きく秘めていることは言うまでもありません。教育制度・研究開発・起業支援に投資し優秀な人材を創出しなければ、特異的な経済的価値を生むイノベーションは起こりえません。
④ 環境・社会の軽視
事業活動の環境影響性や社会に対する波及効果を考慮しない事業開発は、環境・社会への悪影響を及ぼすだけでなく、産業の発展に必要な資源を過度に消費し、将来的な事業活動の拡大と産業全体の成長、その両方を妨げます。
⑤ 消極的なM&A
会計制度基準の性質上、赤字企業を積極的に買収することが日本は他国に比べて難しく、M&Aが少ない傾向にあります。イノベーションを起こすためには、新興企業が持つ先進技術・知見、また赤字企業が持つパテント・データ・技術の活用が不可欠であり、利益が赤字であるという理由で事業の拡大機会を失ってはいけません。
ショートターミズムに陥る
構造的原因
企業がショートターミズムに陥る原因として主に3つの理由が挙げられます。一つ目は短期インセンティブと長期インセンティブの整合が取れていないこと。経営陣の任期や会計開示の制約によって、先行投資をして将来収益を上げるよりも短期的な利得を求める傾向が強くなります。二つ目にアクティビスト的投資活動によって、投資の短期化が進んでいること。PEファンドでは一般にコングロマリットディスカウントの解消や資産売却によってROEを高める形で短期的に株価を上昇させるインセンティブが強くなる一方で、先行投資部門の成長や事業間の中長期的なシナジーが失われやすいという問題が生じています。最後にデフレ・低成長化が短期主義的傾向を助長しているということ。長期事業への資本投下を抑えて目前の利益を求める判断が短期合理的であるが、結果として事業成長が停滞し利潤の源泉がなくなる──利益を目指せば目指すほど、その実現から遠ざかる囚人のジレンマのような状態が出来上がっています。